セクハラによる労災

職場においてセクハラを受けたことで,

うつ病などの精神疾患を発症した場合,

セクハラの被害者は,労災を利用することができるのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラによる労災について説明します。

 

 

厚生労働省は,「心理的負荷による精神障害の認定基準

という精神障害の労災の基準を定めています。

 

 

この基準では,「精神障害の発病前おおむね6ヶ月間に,

業務による強い心理的負荷が認められること

という要件を満たす必要があります。

 

 

セクハラが強い心理的負荷と認められるのは次のような場合です。

 

 

まず,胸や腰などへの身体的接触を含むセクハラの場合です。

 

 

 

 

身体的接触が,①継続して行われた場合,

②継続していないが,会社に相談しても適切な対応がなく,

改善されなかった,または会社へ相談した後に

職場の人間関係が悪化した場合に,

セクハラによる心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

次に,身体的接触のない性的な発言のみのセクハラの場合です。

 

 

 

 

①発言の中に人格を否定するものを含み,

かつ継続してなされた場合,

②性的な発言が継続してなされ,

かつ会社がセクハラがあると把握していても適切な対応がなく,

改善がなされなかった場合に,

セクハラによる心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

精神疾患の労災の場合,精神疾患発症から6ヶ月間

に生じた出来事をチェックしますが,セクハラの場合は,

いったんセクハラがなされ始めると

セクハラが繰り返し行われる性質があります。

 

 

そこで,精神疾患発症の6ヶ月よりも前にセクハラが始まり,

セクハラが継続している場合には,6ヶ月よりも前に

セクハラが始まった時点からの心理的負荷を評価することになります。

 

 

さて,セクハラは,された方が,

職場の上下関係や支配関係があることで,

「No」と言いづらいところに本質があります。

 

 

セクハラ後の仕事上の不利益や職場環境の悪化を恐れてしまい,

被害者は,どうしても「No」と言いづらいのです。

 

 

 

 

このセクハラの本質を理解しなければ,

セクハラによる心理的負荷の強さを見誤ってしまいます。

 

 

そこで,労災の認定基準には,セクハラ事件について,

以下の留意事項をあげています。

 

 

①セクハラの被害者は,勤務を継続したいとか,

加害者からのセクハラの被害をできるだけ軽くしたいとか

の心理などから,やむを得ず加害者に迎合するような

メールを送ることや,加害者の誘いを受け入れることがあるが,

これらの事実がセクハラを受けたことを

単純に否定することにはならないこと。

 

 

②被害者は,被害を受けてからすぐに

相談行動をとらないことがあるが,

この事実が心理的負荷が弱いと

単純に判断する理由にならないこと。

 

 

③被害者は,医療機関でもセクハラを受けたということを

すぐに話せないこともあるが,初診時にセクハラの事実を

申し立てていないことが心理的負荷が弱いと

単純に判断する理由にならないこと。

 

 

加害者が上司であり被害者が部下である場合

加害者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合など,

加害者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある

事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

 

 

このように,労災基準は,セクハラの被害者が

「No」と言いづらい本質に留意するように注意を促しているのです。

 

 

セクハラが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合は,

労災保険の対象になりますので,

労災に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

うつ病で休職中の先生を解雇できるのか

私は,今年から母校の高校の学校評議員

をさせていただくことになりました。

 

 

学校評議員制度とは,地域に開かれた学校づくりを

推進していくために,地域住民が学校運営へ参画する仕組みです。

 

 

学校評議員は,学校運営に関し,

保護者や地域住民の意向を反映し,

学校は,学校評議員の意見を聞いて,

特色ある教育活動を積極的に展開していくのです。

 

 

 

以上が,文部科学省の説明です。

 

 

要するに,学校の運営に,地域住民として

意見を述べることが期待されている役職です。

 

 

先日,第1回の会合に参加してきました。

 

 

学校側が詳細な目標や中間査定の評価をまとめており,

それに対して,自分なりに感じたことを発言してきました。

 

 

そこで感じたことは,学校の先生は本当に大変だなぁということです。

 

 

最近では,アクティブラーニングといい,

生徒同士が課題について調べてきたことを互いに教え合う授業や,

パワーポイントを使って授業したりと,

私が高校生だったころと比べて,かなり先進的な授業が行われています。

 

 

しかし,このような先進的な授業をするには,先生の準備が大変です。

 

 

さらに,部活動の指導があったり,

保護者対応があったり,

今回の会合の資料作りがあったりと,

先生は仕事が多すぎると思いました。

 

 

残業時間が多いのに,働き方改革のため,

残業時間を削減しなければならず,学校現場では,

大変な苦労があるのを実感しました。

 

 

さて,前置きが長くなりましたが,

先生の仕事が大変だということについて,

学校法人武相学園事件の裁判例を紹介します

(東京高裁平成29年5月17日判決・労働判例1181号54頁)。

 

 

うつ病で休職中の先生を懲戒解雇できるのかが争われました。

 

 

原告の先生は,平日は,午前6時に出勤し,

午前8時まで部活の顧問の仕事をし,日中は授業をして,

午後8時まで部活の顧問の仕事をしていました。

 

 

 

 

土曜日も朝早くから部活動の顧問の仕事をし,

日曜日に対外試合があれば,生徒を引率し,審判もしていました。

 

 

原告の先生がうつ病を発症する前6ヶ月間の時間外労働は,

1ヶ月あたり91時間~146時間でした。

 

 

原告の先生は,部活動の生徒に対して失言をし,

生徒に対して,失言の口止めをしました。

 

 

このことについて,学校の調査が始まったところ,

部活動の会計に不明点があることが発覚していきました。

 

 

そして,原告の先生は,長時間の時間外労働と,

これらの調査によるストレスが原因で,

うつ病の診断を受けて,病気休職となりましたが,

学校は,原告の先生を懲戒解雇しました。

 

 

ここで,労働基準法19条1項には,

労働者が業務上負傷し,または疾病にかかり療養のために

休業する期間は,解雇してはならないと規定されています。

 

 

これは,労働者が労災補償としての療養のための

休養を安心して行えるように配慮する必要があるからです。

 

 

本件では,原告の先生のうつ病が仕事が原因で

発症したものか否かが争われました。

 

 

 

 

すなわち,仕事が原因でうつ病を発症したのであれば,

解雇できませんし,そうでないなら,

解雇の要件を満たせば解雇できることになります。

 

 

学校は,部活動の顧問をしている先生に定額の顧問手当

(1年間で1万5500円)と休日出勤手当(日額2500円)

を支給し,部活動は,顧問手当の範囲でできることを

やればよいという建前がとられていました。

 

 

しかし,入学金免除の特待生をかかえる運動部の顧問の先生が,

学校の指示をそのまま受け取ることはできず,

運動部の顧問の先生は,対外試合で好成績を残すことを

学校から黙示的に努力目標として課されていたのです。

 

 

そして,学校の仕事ではない,県高体連の仕事も,

原告の先生の本来業務と同じと扱われ,

部活動の顧問の仕事で長時間の時間外労働をしたことの

心理的負荷が強かったと判断されました。

 

 

その結果,仕事が原因でうつ病を発症したと認定され,

労働基準法19条1項により,解雇は無効と判断されました。

 

 

人間は,1ヶ月の残業時間が100時間を超えると

うつ病を発症するリスクが高まります。

 

 

働き方改革が叫ばれている今こそ,

学校の先生の仕事の負担を軽減し,

先生が健康なまま働ける社会に

していかなければならないと考えます。

 

 

学校の先生が働き過ぎによって健康を害することがないように,

学校評議員の役割を全うしていきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

夢の国での過酷な労働

朝日新聞の報道によれば,東京ディズニーランドにおいて,

ディズニーのキャラクターの着ぐるみを着用して

ショーに出演していた2名の労働者が,

運営会社に対して裁判を起こしたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL7M41Y1L7MULFA00F.html

 

 

1名の原告は,キャラクターの着ぐるみを着用して,

客にあいさつをして回っているときに,

男性客に右手の薬指を無理やり曲げられて

けがをしてしまったようです。

 

 

 

 

この原告の労働者が,上司に労災申請をしたいと相談した際に,

上司からは「それくらい我慢しなきゃ」,「君は心が弱い」

と言われて,つきかえされたようです。

 

 

上司の言動を証明できるかという問題はありますが,

上司の言動が真実であれば,「労災隠し」の問題があります。

 

 

会社は,労災事故が発生した場合,遅れることがないように,

労働基準監督署へ報告する義務を負っています。

 

 

それでも,会社は,労働基準監督署の調査や行政指導

を受けたくなかったり,労災保険料が増額されることを避けたいがために,

労災隠しをすることがありますが,労災隠しは違法な行為です。

 

 

さらに,会社は,労働者が労災申請をする際には,

協力する義務があるのですが,

この協力義務にも違反することになります。

 

 

また,もう1名の原告の労働者は,

着ぐるみでショーに出演して働いていたところ,

左腕が重く感じ,手の震えが止まらなくなったようです。

 

 

しかし,休みがとりにくく,仕事を続けた結果,

症状が悪化し,腕をあげると激痛が走り,

手の感覚がなくなり,胸郭出口症候群と診断されて,

労災認定を受けたようです。

 

 

胸郭出口症候群とは,首と腕の間にある胸郭出口

と呼ばれるところで,筋肉や骨により神経や血管が圧迫されて,

腕のしびれが生じる病気のことです。

 

 

 

 

胸郭出口症候群で首,肩,上肢から手指にかけて

しびれや痛みが残った場合,局部の神経系統の後遺障害として,

労災では12級13号か14級9号の等級認定がされる可能性があります。

 

 

労災で後遺障害の等級認定が受けられれば,

労災から障害給付として障害一時金が支給されます。

 

 

さて,私も,大学生だったころに,着ぐるみを装着して

アルバイトをしたことがありますので,

着ぐるみの大変さはよくわかります。

 

 

着ぐるみの大変なのは,①着ぐるみが重くて臭い,

②視界が狭いので自分で動きにくく,ストレスがかかる,

③着ぐるみの中は蒸し風呂状態で暑くて不快であるといった点にあります。

 

 

最近は,着ぐるみを装着したまま,

アクロバットな動きをするキャラクターがいますが,

着ぐるみ自体が重く,視界も悪いので,相当危険だと思います。

 

 

さらに,今年のような猛暑の中,

屋外で着ぐるみを装着することは,まさに地獄だと思います。

 

 

このような過酷な労働をしていると,

怪我をしたり,病気になるのは当然なのでしょう。

 

 

会社は,着ぐるみを装着して働くことの過酷さを理解し,

着ぐるみを装着して働く回数を制限したり,

十分な休憩をとらせるなどの対策をとるべきです。

 

 

子供たちに夢を与える場所で働く労働者が,

仕事が原因で体を壊すのでは,

せっかくの夢の国が台無しです。

 

 

 

早急に,夢の国での労働環境が改善されることを期待したいです。

仕事が原因で腰痛になったら労災を検討する

介護施設で働いている人が,入居者の入浴介助

をしているときにぎっくり腰になった場合,

労災と認められるのでしょうか。

 

 

 

 

労働者に生じる腰痛の発症要因には,加齢による影響,

運動不足による腰部・腹筋などが弱くなっているという個人的な要因と,

腰に過度の負担を加える労働態様,労働環境などの職業的な要因

があるため,仕事によって腰痛が発症したと

判断するのが困難であるといわれています。

 

 

腰痛の労災の認定基準では,腰痛を次の2つに分類しています。

 

 

①災害性の原因による腰痛(突然腰痛になる場合)

 

 

②災害性の原因によらない腰痛

(徐々に腰に負担が積み重なって腰痛になる場合)

 

 

まず,①災害性の腰痛は,次の要件を満たす必要があります。

 

 

(1)腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる

通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が

業務遂行中に突発的な出来事として生じたと

明らかに認められるものであること。

 

 

ようするに,普段とは違う動作をして腰に

急激な力が突発的に加わったということです。

 

 

具体的には,重量物を運んでいる最中に転倒したり,

重い荷物を取り扱ったときに不適当な姿勢をとったことで,

腰に過度な負担が生じたときなどです。

 

 

 

(2)腰部に作用した力が腰痛を発生させて,

または腰痛の既往症もしくは基礎疾患を

著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること。

 

 

次に,②非災害性の腰痛には,次の2つがあります。

 

 

(1)腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間

(おおむね3ヶ月から数年以内)従事する労働者に発症した腰痛

 

 

(2)重量物を取り扱う業務または腰部に過度の負担がかかる作業態様

の業務に相当長期間(おおむね10年以上)にわたって

継続して従事した労働者に発症した慢性的な腰痛

 

 

ここでいう腰に負担のかかる業務とは,次のものです。

 

ア:おおむね20キログラム程度以上の重量物または

軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務

 

イ:腰部にとって極めて不自然ないし非生理的な姿勢で

毎日数時間程度行う業務

 

ウ:長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない

同一作業姿勢を持続して行う業務

 

エ:腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務

 

 

さて,介護施設で入浴介助をしていて労働者がぎっくり腰になった場合,

普段とは違う動作をして腰に急激な力が突発的に加わったのであれば,

①災害性の腰痛と認定される可能性があります。

 

 

また,入浴介助を3ヶ月から数年間

継続的に行っていたのであれば,

上記のアやイに該当して,

②非災害性の腰痛と認定される可能性があります。

 

 

腰痛の労災を検討する場合,

どれくらいの就労期間中,

どれくらいの時間,

どんな物を,

どのような頻度で運んでいたのか,

どういった姿勢をとる必要があったのか

を検討することが重要になります。

 

 

仕事が原因で腰痛になったのではないかと思ったならば,

労災が利用できないかを検討してみてください。

労災担当官削減の悲劇

7月24日の北陸中日新聞の報道によると,

今年6月に成立した働き方改革関連法に基づき,

厚生労働省は,企業の長時間労働を是正するために,

労働基準監督署の労働基準監督官を増やして,

労災担当官を減らすことに決めたようです。

 

 

労働基準監督署には,企業が労働基準法を守っているかを

監督・指導・取締をする監督部署と,

労災申請に対して,労災か否かを認定する労災部署があります。

 

 

 

 

厚生労働省は,違法残業への監督を強化するために,

監督部署の人員を2017年度1929人だったのを

2500人に増やし,一方,労災部署の人員を

2017年1966人だったのを1300人に減らすようです。

 

 

サービス残業やパワハラがまかりとおっている現代社会において,

労働基準法をしっかりと守る企業を増やすために,

監督部署の人員を増加することは重要なことです。

 

 

しかし,労災部署の人員を減らせば,労災認定がでるまでに

時間がかかり,被災した労働者の保護が

手薄になるという不都合が生じます。

 

 

特に,パワハラなどでうつ病などの精神疾患を発症して

働けなくなり,労災申請する件数が

5年連続で右肩上がりに増加しています。

 

 

精神疾患の労災の場合,1ヶ月あたり100時間程度

の残業があったかの認定をしたり,

ノルマが達成できなかったり,

上司とのトラブルやいじめや嫌がらせなど

の出来事があったのかについて,

会社の関係者から事情聴取するなどして調査する必要があり,

高い専門性が求められます。

 

 

労災申請の件数が増加しているのに,

労災担当官の人員が減少すれば,

労災認定業務が滞ることは明らかです。

 

 

転落や転倒などでけがを負った場合の労災は,

申請から1ヶ月程度で認定の判断がされますが,

精神疾患の労災は,申請から8ヶ月程度かかってしまいます。

 

 

ただでさえ,精神疾患の労災の認定がでるまで

申請から8ヶ月程度かかっているのが,

さらに時間がかかってしまうと,

パワハラでうつ病になった労働者の保護が遅くなってしまいます。

 

 

パワハラでうつ病になり,働けなくなったので,

精神科での治療費や休業補償を請求しても,

1年ほど待たないとそれらの費用が支給されないことになれば,

その間の生活費が不足して,困窮することになり,

被災した労働者は,まさに踏んだり蹴ったりです。

 

 

 

 

さらに,労災申請が増えているのに,

労災担当官が減少すれば,労災担当官の業務が過剰になり,

労災担当官が過労死したり,精神疾患を発症させてしまう

危険性もあります。

 

 

労働基準法を守れと監督する労働基準監督署内で,

サービス残業が蔓延して過労死などが発生する悲劇が起こりかねません。

 

 

企業を監督指導する監督業務と,

労災事案を調査して認定する労災業務は

車の両輪ですので,労災担当官を増員することを切に願います。

 

 

過労事故死について会社に損害賠償請求できるのか

過労状態で仕事中や帰宅途中に自動車などの

運転操作を誤って,交通事故をおこして死亡した場合,

遺族は,会社に対して,損害賠償を請求できるのでしょうか。

 

 

過労の蓄積で脳・心臓疾患を発症して死亡した過労死や,

過労により精神疾患を発症して自殺した過労自殺については,

厚生労働省から労災の認定基準が公表されており,

会社に対する損害賠償請求が認められている裁判例もあります。

 

 

他方,過労状態で仕事中や通勤途中に交通事故で死亡した,

いわゆる「過労事故死」の場合,労災で補償が受けられますが,

過労死や過労自殺のような認定基準は定められていません。

 

 

 

 

また,過労が原因で交通事故が発生したのか,

運転者のミスで交通事故が生じたのか明確に分からなかったり,

交通事故の場合,自動車保険で損害が補填されることから,

過労事故死の場合に,会社に対して

損害賠償請求することは少なかったと考えられます。

 

 

このような状況の中,過労事故死について,

平成30年2月8日に横浜地裁川崎支部において

重要な和解がありましたので,紹介させていただきます。

 

 

24歳だった若者が,夜通しの仕事を終えて,

片道1時間かかる自宅へ原付バイクで帰宅途中に,

見通しのよい直線道路を走行中に左前方へ斜走して

路側帯にはみ出して電柱に激突して

死亡したという交通事故がありました。

 

 

通勤災害として,労災から補償はでますが,

自損事故のため,事故相手の自動車保険が利用できず,

自分の原付バイクに十分な損害保険をかけていなければ,

遺族に対する損害は十分に補填されません。

 

 

そこで,過労状態で原付バイクで帰宅させたことについて,

会社に対して,安全配慮義務違反

(会社には労働者の安全を確保する義務があります)

による損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

本件では,被害者の仕事が顧客の店舗で観葉植物などの

設置や撤去をするという重い荷物の積卸しなど,

身体的な負荷の高い仕事をしており,被害者は,

複数の取引先を社用車を運転して頻繁に移動しながら,

深夜と早朝における作業をしていました。

 

 

そして,本件事故の日の前日から夜通しで,

拘束時間が21時間以上に及ぶ仕事をし,

他の日の時間外労働も多かったのです。

 

 

 

 

そのため,被害者は,深夜と早朝の勤務を含む不規則で

過重な仕事をし,事故直前に夜通しで仕事をしたため,

疲労が過度に蓄積して,顕著な睡眠不足の状態に陥り,

本件事故が発生したと認定されました。

 

 

そして,被告の会社は,被害者の仕事の負担を軽くする

などの措置をとることなく,深夜や早朝の仕事の場合に,

原付バイクによる通勤を明確に指示していたので,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

その結果,7590万円の損害賠償が認められました。

 

 

さらに,本件では,和解において,

被告会社が遺族に謝罪すること,

再発防止策を実施することを確約して,

実施状況をホームページで公表すること,

和解内容を公表することが合意されました。

 

 

判決では,単に,損害賠償としてお金を支払えで

終わるのですが,和解では,謝罪や再発防止策という

遺族が求める解決が実現できるメリットがあります。

 

 

通常,和解内容は,秘密にすることが多いのですが,

本件は社会的に重要な事件であることから,

和解内容が公表されたことが非常に画期的です。

 

 

過労が原因で交通事故が発生していることは多いと思いますが,

過労事故死は今まで表面化していなかっただけなのだと考えられます。

 

 

この和解をきっかけに,過労事故死の

救済がすすんでいくことに期待したいです。

石川県で労災事故が増えている

石川労働局の統計によれば,平成28年の

石川県内の労災による死傷者数は987人であったのに対し,

平成29年には1153人に増加しました。

 

 

16.8%の増加です。

 

 

 

石川県の飲食業界では,前年比27.6%も増加しました。

 

 

6月10日の北陸中日新聞の記事では,

労災が増加した原因に人手不足があると指摘されています。

 

 

ある飲食店では,人手不足のために,

労働者は,休むことができずに,疲労がたまり,

働いている最中に意識が遠のき,

足を滑らせて床に体をうちつけて,

骨折してしまいました。

 

 

ある介護施設では,人手不足のために,

一人で多くの利用者を担当することになり,

利用者の入浴介助の後に転倒して肩を痛めました。

 

 

石川県内の労働現場では,人手不足のために,

休めなかったり,一人で多くの仕事を

しなければならなくなったりして,疲労がたまり,

疲労の状態のまま仕事をして,ミスが生じて

労災事故が発生していると考えられます。

 

 

また,白山市の製紙会社の工場で,

労働者3人がタンクに転落して死亡するという

痛ましい労災事故が発生しました。

 

 

さて,ここからは,転倒や転落といった労災事故

にまきこまれてしまった場合の対処法について説明していきます。

 

 

労災事故にまきこまれて,けがを負った労働者は,

まず,労働基準監督署へいき,

労災保険給付の請求を行うべきです。

 

 

事故が労災と認定されれば,

治療費を自分で負担する必要がなくなり,

会社を休むことになれば,休業補償を受けれますし,

後遺障害が残れば,障害の程度に応じて給付を受けられます。

 

 

会社が労災請求の手続を代行してくれることがありますが,

労災請求用紙を労働基準監督署へ提出する前に,

労働者が自分で事実関係に誤りがないかチェックするべきです。

 

 

会社は,労災が発生した場合,労働基準監督署に

報告する義務がありますので,労災隠しは違法なのです。

 

 

労災と認定されて,給付が受けられたとしても,

労災保険だけで,労災事故によるけがの補償が

完全になされたことにはなりません。

 

 

労災保険は,政府による最低限の補償であって,

労災事故によって労働者が被った損害のすべてを

補償するには不十分です。

 

 

例えば,慰謝料は,労災保険の補償の対象外となっています。

 

 

そこで,労災保険給付では足りない部分について,

会社に対して,損害賠償請求をすることになります。

 

 

この会社に対する損害賠償請求では,

会社に「安全配慮義務」違反があったか否かが争点になります。

 

 

安全配慮義務とは,会社は,労働者の生命・健康を

危険から保護するように配慮しなければならないという義務です。

 

 

会社は,直接労働契約を締結している労働者

に対して安全配慮義務を負うのは当然ですが,

直接労働契約を締結していない労働者に対しても

安全配慮義務を負うことがあります。

 

 

例えば,建設現場などで,

いくつもの元請・下請関係が存在し,

建築資材や機械を元請が準備し,

工事現場の安全管理や現場作業員への指示を

元請業者が行っている場合,

元請業者は,下請業者の労働者と直接労働契約

を締結していませんが,下請業者の労働者に対して,

安全配慮義務を負うことになります。

 

 

 

そのため,下請業者に資力がなくて,

下請業者に損害賠償請求をしても,

損害賠償金を回収できないおそれがあっても,

元請業者に対して,損害賠償請求を

することが可能になるのです。

 

 

石川県で労災事故が増加している今,

労災事故にまきこまれてしまったら,

労災保険給付を受け,会社に対して,

損害賠償請求をするのかを検討することをおすすめします。

弁護士が労働災害の初期段階から関与する必要性

作業中にはしごから足を踏み外して床に転落してしまい,重大なけがを負ってしまった。倉庫で荷物を探していたら,荷物が倒れてきて,重い荷物の下敷きになってしまって骨折してしまった。機械を操作していたら,機械に指が挟まれて指を切断してしまった。

 

このように,仕事中の事故が原因でけがを負うことを労働災害といいます。労働災害にあった場合,労働基準監督署に労災保険の請求をして,労災と認定されれば,国から,治療費,休業補償が支給されます。後遺障害が残れば,後遺障害によって失われた労働能力に応じた補償が受けられます。

 

労働災害にあった労働者が労働基準監督署に労災の申請をする際に,厚生労働省の「労災保険給付関係請求書」に必要事項を記載する必要があります。

 

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/03.html

 

労災保険給付関係請求書には,「災害の原因及び発生状況」という欄があり,ここに,どのような場所で,どのような作業をしているときに,どのような災害にあったのかを具体的に記載します。

 

もっとも,「災害の原因及び発生状況」の欄は,数行しかなく,必要な事実を詳細に分かりやすく記載するには狭すぎます。

 

そこで,別紙として,労働災害が発生した状況を詳細に分かりやすく説明する文書を作成して提出することをおすすめします。労働基準監督署の担当官が,どの点をポイントに労働災害の調査をすればいいのか明確になりますし,労働災害にあった労働者の主張を,予め担当官に刷り込ませることで,労働者に有利に労災認定がされることがあるからです。

 

そして,「災害の原因及び発生状況」の欄の記載は,後々の会社に対する損害賠償請求訴訟において重要な証拠となりますので,証拠に基いて正確に記載する必要があります。

 

弁護士が,労働災害が発生した初期の段階から関与すれば,労働災害にあった労働者から労災事故の状況を的確に聴取して,労災保険給付関係請求書の「災害の原因及び発生状況」を補足する文書を作成し,労働基準監督署の監督官と面談して,労災事故の事実を正確に説明して,どの点をポイントに調査してほしいのかを伝えることができます。

 

また,労災保険で後遺障害についての補償を受けるには,「労働者災害補償保険診断書」に,障害の内容と状態を正確に記載してもらうことが重要になります。

 

弁護士が,労働災害が発生した初期の段階から関与すれば,主治医と面談して,医学的なアドバイスを聞き,「労働者災害補償保険診断書」に障害の内容と状態を正確に記載してもらうように伝えることができます。

 

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/dl/yoshiki10-shindansyo.pdf

 

このように,弁護士が労働災害が発生した初期の段階から関与することで,労働者が適切な補償を受けられることができるのです。

会社の懇親会後の交通事故は労災になるのか?

会社の歓送迎会に参加した後の送迎中に交通事故にあった労働者について,労災が認められた最高裁判例を紹介します(最高裁平成28年7月8日判決・行橋労基署長(テイクロ九州)事件・労働判例1145号6頁)。

 

被災労働者は,部長から,中国人研修生の歓送迎会に参加するよう言われましたが,翌日までに提出しなければならない資料作成があるため,一度は,歓送迎会に参加することを断りましたが,部長から,「今日が最後だから,顔を出せるなら,出してくれないか。」と説得されて,参加することになりました。

 

被災労働者は,資料作成を一時中断して,会社の車に乗って,歓送迎会に参加し,アルコール飲料は飲まずに,飲食をしました。被災労働者は,酩酊している中国人研修生をアパートに送迎してから,会社に戻るために運転していたところ,交通事故にあい,死亡しました。

 

被災労働者の遺族が,遺族補償給付の請求をしましたが,不支給の決定を受けたので,不支給決定の取消を求めて,提訴しました。1審と2審では,労災とは認められず,遺族が敗訴しましたが,最高裁で逆転勝訴となり,労災と認められました。

 

最高裁は,次の事実をもとに,労災と認めました。まず,被災労働者は,部長から歓送迎会に参加してほしいと強く求められたため,歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況となり,歓送迎会終了後に会社に戻ることを余儀なくされました。

 

次に,本件歓送迎会は,研修の目的を達成するために会社で企画された行事の一環であり,会社の事業活動に密接に関連して行われたものでした。

 

これらのことから,交通事故の際,被災労働者は,会社の支配下にある状態であったと認定されて,労災と認められました。

 

通常,歓送迎会が会社外で行われて,アルコール飲料が提供されていれば,歓送迎会後の交通事故は,労災と認められにくいのですが,本件は,上司から歓送迎会への参加を強引に誘われて断れず,歓送迎会後に仕事に戻らなければならなかった事情を考慮して,労災と認められた貴重な判例です。

 

懇親会参加後の交通事故であっても,懇親会参加への強制や,懇親会後に仕事を再開することが予定されていたことを立証することで労災と認定される場合がありますので,労災に詳しい弁護士へご相談することをおすすめします。

 

労災でお困りの方は,金沢合同法律事務所へご相談ください。

 

会社には労災請求に協力する義務があります

そもそも,労災請求は,労働者や遺族に認められた当然の権利であり,労災請求をするにあたって,会社の許可や承認は不要です。会社が労災請求に反対していても,労働者や遺族は,当然に労災請求できます。

 

また,労災保険法施行規則23条において,会社は,労働者や遺族が労災請求手続を行うことができるように助力しなければならず,労災保険給付を受けるために必要な証明を求められた場合には,すみやかに証明をしなければらならない,と定められています。このように,会社には労災請求に協力する義務があるので,会社が労災請求用紙への押印等の協力を拒否することは許されません。

 

それでも,会社が,「今回の事故は労災ではない」という勝手な判断を労働者に押し付けてきて,労災請求用紙への押印を拒否したりすることがあります。

 

労働者や遺族が,会社に対して,労災請求用紙への押印を要請したけれども断られてしまった場合,労災請求用紙の会社証明欄を空欄のままにして,労働基準監督署へいって,労災請求手続を行えばいいのです。そして,労働基準監督署に労災請求用紙を提出する際に,会社から労災請求用紙への押印を拒否された事情を説明した文書を提出します。このようにして,労災請求用紙を労働基準監督署へ提出すれば,労働基準監督署は調査を開始します。

 

このように,会社には,労災請求に協力する義務がありますし,仮に,会社が労災請求に協力してくれなくても,労災請求することができますので,労働者が仕事中にけがを負った場合,労災請求をしましょう。