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夢の国での過酷な労働

朝日新聞の報道によれば,東京ディズニーランドにおいて,

ディズニーのキャラクターの着ぐるみを着用して

ショーに出演していた2名の労働者が,

運営会社に対して裁判を起こしたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL7M41Y1L7MULFA00F.html

 

 

1名の原告は,キャラクターの着ぐるみを着用して,

客にあいさつをして回っているときに,

男性客に右手の薬指を無理やり曲げられて

けがをしてしまったようです。

 

 

 

 

この原告の労働者が,上司に労災申請をしたいと相談した際に,

上司からは「それくらい我慢しなきゃ」,「君は心が弱い」

と言われて,つきかえされたようです。

 

 

上司の言動を証明できるかという問題はありますが,

上司の言動が真実であれば,「労災隠し」の問題があります。

 

 

会社は,労災事故が発生した場合,遅れることがないように,

労働基準監督署へ報告する義務を負っています。

 

 

それでも,会社は,労働基準監督署の調査や行政指導

を受けたくなかったり,労災保険料が増額されることを避けたいがために,

労災隠しをすることがありますが,労災隠しは違法な行為です。

 

 

さらに,会社は,労働者が労災申請をする際には,

協力する義務があるのですが,

この協力義務にも違反することになります。

 

 

また,もう1名の原告の労働者は,

着ぐるみでショーに出演して働いていたところ,

左腕が重く感じ,手の震えが止まらなくなったようです。

 

 

しかし,休みがとりにくく,仕事を続けた結果,

症状が悪化し,腕をあげると激痛が走り,

手の感覚がなくなり,胸郭出口症候群と診断されて,

労災認定を受けたようです。

 

 

胸郭出口症候群とは,首と腕の間にある胸郭出口

と呼ばれるところで,筋肉や骨により神経や血管が圧迫されて,

腕のしびれが生じる病気のことです。

 

 

 

 

胸郭出口症候群で首,肩,上肢から手指にかけて

しびれや痛みが残った場合,局部の神経系統の後遺障害として,

労災では12級13号か14級9号の等級認定がされる可能性があります。

 

 

労災で後遺障害の等級認定が受けられれば,

労災から障害給付として障害一時金が支給されます。

 

 

さて,私も,大学生だったころに,着ぐるみを装着して

アルバイトをしたことがありますので,

着ぐるみの大変さはよくわかります。

 

 

着ぐるみの大変なのは,①着ぐるみが重くて臭い,

②視界が狭いので自分で動きにくく,ストレスがかかる,

③着ぐるみの中は蒸し風呂状態で暑くて不快であるといった点にあります。

 

 

最近は,着ぐるみを装着したまま,

アクロバットな動きをするキャラクターがいますが,

着ぐるみ自体が重く,視界も悪いので,相当危険だと思います。

 

 

さらに,今年のような猛暑の中,

屋外で着ぐるみを装着することは,まさに地獄だと思います。

 

 

このような過酷な労働をしていると,

怪我をしたり,病気になるのは当然なのでしょう。

 

 

会社は,着ぐるみを装着して働くことの過酷さを理解し,

着ぐるみを装着して働く回数を制限したり,

十分な休憩をとらせるなどの対策をとるべきです。

 

 

子供たちに夢を与える場所で働く労働者が,

仕事が原因で体を壊すのでは,

せっかくの夢の国が台無しです。

 

 

 

早急に,夢の国での労働環境が改善されることを期待したいです。

仕事が原因で腰痛になったら労災を検討する

介護施設で働いている人が,入居者の入浴介助

をしているときにぎっくり腰になった場合,

労災と認められるのでしょうか。

 

 

 

 

労働者に生じる腰痛の発症要因には,加齢による影響,

運動不足による腰部・腹筋などが弱くなっているという個人的な要因と,

腰に過度の負担を加える労働態様,労働環境などの職業的な要因

があるため,仕事によって腰痛が発症したと

判断するのが困難であるといわれています。

 

 

腰痛の労災の認定基準では,腰痛を次の2つに分類しています。

 

 

①災害性の原因による腰痛(突然腰痛になる場合)

 

 

②災害性の原因によらない腰痛

(徐々に腰に負担が積み重なって腰痛になる場合)

 

 

まず,①災害性の腰痛は,次の要件を満たす必要があります。

 

 

(1)腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる

通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が

業務遂行中に突発的な出来事として生じたと

明らかに認められるものであること。

 

 

ようするに,普段とは違う動作をして腰に

急激な力が突発的に加わったということです。

 

 

具体的には,重量物を運んでいる最中に転倒したり,

重い荷物を取り扱ったときに不適当な姿勢をとったことで,

腰に過度な負担が生じたときなどです。

 

 

 

(2)腰部に作用した力が腰痛を発生させて,

または腰痛の既往症もしくは基礎疾患を

著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること。

 

 

次に,②非災害性の腰痛には,次の2つがあります。

 

 

(1)腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間

(おおむね3ヶ月から数年以内)従事する労働者に発症した腰痛

 

 

(2)重量物を取り扱う業務または腰部に過度の負担がかかる作業態様

の業務に相当長期間(おおむね10年以上)にわたって

継続して従事した労働者に発症した慢性的な腰痛

 

 

ここでいう腰に負担のかかる業務とは,次のものです。

 

ア:おおむね20キログラム程度以上の重量物または

軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務

 

イ:腰部にとって極めて不自然ないし非生理的な姿勢で

毎日数時間程度行う業務

 

ウ:長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない

同一作業姿勢を持続して行う業務

 

エ:腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務

 

 

さて,介護施設で入浴介助をしていて労働者がぎっくり腰になった場合,

普段とは違う動作をして腰に急激な力が突発的に加わったのであれば,

①災害性の腰痛と認定される可能性があります。

 

 

また,入浴介助を3ヶ月から数年間

継続的に行っていたのであれば,

上記のアやイに該当して,

②非災害性の腰痛と認定される可能性があります。

 

 

腰痛の労災を検討する場合,

どれくらいの就労期間中,

どれくらいの時間,

どんな物を,

どのような頻度で運んでいたのか,

どういった姿勢をとる必要があったのか

を検討することが重要になります。

 

 

仕事が原因で腰痛になったのではないかと思ったならば,

労災が利用できないかを検討してみてください。

石川県で労災事故が増えている

石川労働局の統計によれば,平成28年の

石川県内の労災による死傷者数は987人であったのに対し,

平成29年には1153人に増加しました。

 

 

16.8%の増加です。

 

 

 

石川県の飲食業界では,前年比27.6%も増加しました。

 

 

6月10日の北陸中日新聞の記事では,

労災が増加した原因に人手不足があると指摘されています。

 

 

ある飲食店では,人手不足のために,

労働者は,休むことができずに,疲労がたまり,

働いている最中に意識が遠のき,

足を滑らせて床に体をうちつけて,

骨折してしまいました。

 

 

ある介護施設では,人手不足のために,

一人で多くの利用者を担当することになり,

利用者の入浴介助の後に転倒して肩を痛めました。

 

 

石川県内の労働現場では,人手不足のために,

休めなかったり,一人で多くの仕事を

しなければならなくなったりして,疲労がたまり,

疲労の状態のまま仕事をして,ミスが生じて

労災事故が発生していると考えられます。

 

 

また,白山市の製紙会社の工場で,

労働者3人がタンクに転落して死亡するという

痛ましい労災事故が発生しました。

 

 

さて,ここからは,転倒や転落といった労災事故

にまきこまれてしまった場合の対処法について説明していきます。

 

 

労災事故にまきこまれて,けがを負った労働者は,

まず,労働基準監督署へいき,

労災保険給付の請求を行うべきです。

 

 

事故が労災と認定されれば,

治療費を自分で負担する必要がなくなり,

会社を休むことになれば,休業補償を受けれますし,

後遺障害が残れば,障害の程度に応じて給付を受けられます。

 

 

会社が労災請求の手続を代行してくれることがありますが,

労災請求用紙を労働基準監督署へ提出する前に,

労働者が自分で事実関係に誤りがないかチェックするべきです。

 

 

会社は,労災が発生した場合,労働基準監督署に

報告する義務がありますので,労災隠しは違法なのです。

 

 

労災と認定されて,給付が受けられたとしても,

労災保険だけで,労災事故によるけがの補償が

完全になされたことにはなりません。

 

 

労災保険は,政府による最低限の補償であって,

労災事故によって労働者が被った損害のすべてを

補償するには不十分です。

 

 

例えば,慰謝料は,労災保険の補償の対象外となっています。

 

 

そこで,労災保険給付では足りない部分について,

会社に対して,損害賠償請求をすることになります。

 

 

この会社に対する損害賠償請求では,

会社に「安全配慮義務」違反があったか否かが争点になります。

 

 

安全配慮義務とは,会社は,労働者の生命・健康を

危険から保護するように配慮しなければならないという義務です。

 

 

会社は,直接労働契約を締結している労働者

に対して安全配慮義務を負うのは当然ですが,

直接労働契約を締結していない労働者に対しても

安全配慮義務を負うことがあります。

 

 

例えば,建設現場などで,

いくつもの元請・下請関係が存在し,

建築資材や機械を元請が準備し,

工事現場の安全管理や現場作業員への指示を

元請業者が行っている場合,

元請業者は,下請業者の労働者と直接労働契約

を締結していませんが,下請業者の労働者に対して,

安全配慮義務を負うことになります。

 

 

 

そのため,下請業者に資力がなくて,

下請業者に損害賠償請求をしても,

損害賠償金を回収できないおそれがあっても,

元請業者に対して,損害賠償請求を

することが可能になるのです。

 

 

石川県で労災事故が増加している今,

労災事故にまきこまれてしまったら,

労災保険給付を受け,会社に対して,

損害賠償請求をするのかを検討することをおすすめします。