労災事件

仕事中の怪我などは、労働災害として
労災保険が利用できます。

そもそも労働災害(労災)とは?

仕事をしているときに,
“高い場所から落ちて怪我をした”
“重い荷物を運んでいて腰痛が発症した”
“機械を操作中に怪我をした”

などの事故を 労働災害(労災)といいます。

労働者が労働災害に遭った場合,国に対して,労災保険による補償を申請して,治療費や会社を休んでいる間の給料の補償を得たり,会社に対して,
“損害賠償” を請求することを検討すべきです。

労災事故のイメージ

労働災害の中では,近年,過労死や過労自殺,精神疾患が問題となることが多いので,これらの問題を中心に労災について説明します。

実務でよく問題になる労災

実務でよく問題になる労災として,以下の4つがあげられます。クリックするとそれぞれの労災について詳細を確認できます。

労災保険は国の制度です。
会社の対応に疑問を感じたときは、
個人でも申請できます。

労災保険の請求は誰がするのか?

労災保険の請求人は,仕事中に負傷した労働者本人または遺族です。

労災請求の手続を,会社や会社と契約する社会保険労務士が代行する場合がよくあります。会社が労災請求用紙に記入してくれることで,労災請求用紙の作成がスムーズに進むことがあります。

ただし,会社に労災請求手続を代行してもらえる場合でも,労働者や遺族は,労災請求用紙を労働基準監督署へ提出する前に,必ず,労災請求用紙の記載内容を確認してください。
特に,労災請求用紙の「災害の原因及び発生状況」という箇所に事実と異なる記載がされていないかを入念にチェックしてください。

会社が労働基準監督署から,労務管理や安全対策が不十分だったのではないかと思われないために,事実と異なる記載をしてしまうことがあるからです。

そして,労災請求用紙の「災害の原因及び発生状況」の箇所に事実と異なる記載がされた場合,労働者が仕事が原因で負傷したのではないと判断されて労災認定が受けられなかったり,民事裁判において,会社の責任を否定する根拠や労働者の過失相殺の根拠となってしまうリスクがあるので,気を付けてチェックしてください。

労働基準監督署に労災請求用紙を提出する前に,内容をよくチェックして,事実と異なる記載がある場合,会社に対して,その部分の訂正を求めましょう。

もっとも,労働者としては,会社における人間関係の悪化をおそれて,訂正を求めることをためらってしまうことがあります。また,訂正箇所の記載について,会社と対立が深まり,労災請求用紙の提出が遅れたり,会社に警戒心を与えてしまい,会社が労災請求を妨害してくるおそれもあります。

そこで,労働基準監督署へ労災請求用紙の提出を優先させた上で,労働者が,労災請求用紙とは別に,「災害の原因及び発生状況」について詳細に説明した文書を作成して,労災請求用紙と一緒に,労働基準監督署へ提出するといいです。

「災害の原因及び発生状況」について詳細に説明した文書は,労災請求手続や民事裁判で,重要な証拠になりますので,弁護士に作成を依頼することをおすすめします。

労災保険とは?

労災保険は,仕事が原因の怪我や病気によって,会社を休まなければならなくなったり,身体に後遺障害が残ったり,死亡した場合に,国が労働者や遺族に対して必要な補償をする制度です。労災保険の保険料は,会社が全額負担することになっており,労災が発生した場合に,怪我や病気をした労働者や遺族が労働基準監督署に対して請求をすれば,補償金を受け取ることができる仕組みになっています。会社が労災保険料を支払っていなくても,労災申請をすることができます。

補償給付の種類

仕事が原因で労働者が怪我や病気になった場合

治療費,治療のために会社を休んだ場合の生活費が支給されます。また,後遺障害が残った場合にも,その状況に応じて以下のような支給があります。

治療に要した費用について療養補償給付が支給されます。健康保険とは異なり,治療費全額が支給され,病院の窓口負担はなくなります。

療養のために働くことができず賃金をもらえなかった期間については,休業補償給付として,賃金の60%に相当する金額が支給されます。

賃金の20%については,労働福祉事業から休業特別支給金として支給されます。

直近の給料の80%が支給されるので,休業期間中の生活の支えになります。

業務上の疾病の症状が固定した後(これ以上治療しても症状が改善しない状態のことです),後遺症が残った場合には,1級から14級までの障害等級を認定し,等級に応じた傷害補償給付,傷害特別支給金が支給されます。

障害等級の1級から7級までは傷害補償年金として支給され,8級から14級までは傷害補償一時金として支給されます。

仕事が原因で労働者が死亡した場合

遺族には,遺族補償給付,葬祭料,就学援護費の支給がされます。

労働者の死亡当時にその収入によって生計を維持していた遺族に対し,遺族補償年金遺族特別年金が支給されます。

被災した労働者の年収や遺族の人数,子供の年齢等によって,支給される年金額は異なります。

通常,労災保険からは,月額20万円から30万円程度が生涯を通じて支給されます。また,遺族特別支給金として,はじめに一時金300万円が支給されます。

葬祭を執り行った遺族に対して,葬祭料が支給されます。
金額は,平均賃金額を基礎にして算出されます。

就学している遺族の学費の支払いが困難な場合に支給されます。

労災時に労働者が受けられる補償制度

労災保険の給付申請手続き

労災の申請は,被災した労働者が勤務していた事業所を管轄している労働基準監督署に対して行います。

労災申請のための請求書は,労働基準監督署に備え付けられているものを使用します。

労働基準監督署に備え付けられている請求書には,一番重要な業務との因果関係を記載する欄が小さいため,労働基準監督署に備え付けられている請求書とは別に,業務との因果関係が認められることを詳細に記載した文書を提出することをお勧めします。

また,証拠不十分で労災ではないと決定されることがあるので,労災を請求する方は,自分の力で集められる資料をできるだけ集めて,労働基準監督署に提出すべきです。

病院に通院しているのであれば,病院にカルテを開示してもらい,カルテを提出します。
可能であれば,業務の実態を知る上司,同僚,友人等から直接お会いして話を聞き,その結果を文書にまとめて,労働基準監督署に提出します。

話を聞くことができなかった関係者については,労働基準監督署に対して,当該関係者に事情聴取を行うように要請します。

会社が労災申請の請求書にハンコを押さないことがあります。

会社がハンコを押さない場合は,「会社がハンコを押さないと言っている」という文書を付けて労働基準監督署に持っていけば,労働基準監督署は労災申請を受理してくれます。

また,法律上,会社は被災した労働者や遺族の労災申請に協力する義務を負っているので(労災保険法施行規則23条),会社に対して,資料の交付を求めたり,申請書にハンコを押すよう求めたりできます。

労災申請をしてから結論が出るまでの期間は,概ね6カ月から1年程度です。

療養補償給付や休業補償給付の時効は2年です。請求の時点から2年以内に支払った療養費や,2年以内の休業分の補償については,日ごとに請求することができます。

障害補償給付の時効は5年です。
遺族補償給付の時効は5年であり,葬祭料の時効は2年です。

このように,労災保険の支給には時効がありますので,早目に専門家へご相談ください。

実務でよく問題になる労災(過労死・過労自殺・通勤災害・腰痛の労災)

過労死による場合

働き過ぎによる過労やストレスが原因となって,脳・心臓疾患などを発病し,死亡することを過労死といいます。

過労死が労災と認められるためには,発症前に従事していた労働が量的及び質的にみて過重であり,その結果,対象となる疾病を発症したことが必要です。

量的な過重性とは,長時間労働に従事したことをいいます。
脳・心臓疾患の場合は,発症前1カ月間に概ね100時間,または発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって,1カ月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められれば,原則として労災と認められます。

実務上,発症前2カ月間だけでも時間外労働の平均が概ね80時間を超えていれば,原則として労災と認定されます。1カ月80時間の時間外労働とは,どれくらい働くことになるのか具体的にみてみましょう。

例えば,午前9時から午後6時が定時で,お昼の休憩が1時間,土日が休日という会社の場合,次のような働き方をすると,1カ月80時間の時間外労働をすることになります。

  1. 平日午後10時まで残業し,土日は完全に休む。
  2. お昼の休憩が実際には30分しか取れず,平日は午後9時まで残業し,土曜日だけ午前中3時間休日出勤した。
  3. 平日は午後7時まで1時間だけ残業し,土日も休まず出勤して平日と同じように午前9時から午後6時まで働いた。

これを超える働き方を続けていると過労死する危険が高まるのです。

質的な過重性とは,労働の実態や過密度をさします。脳・心臓疾患の場合は,勤務の不規則性,拘束時間の長さ,出張の量や内容,交代制勤務や深夜勤務の頻度や内容,作業環境(温度・騒音・時差等),精神的緊張の有無などが評価されます。

厚生労働省は,過労死について,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成13年12月12日付基発第1063号)という通達を出しています。労働基準監督署は,この認定基準に基づき,労災か否かを判断します。

過労死が労災認定されるためには,被災した労働者が長時間労働をしていたことを立証することが大変重要です。

長時間労働を立証するための証拠としては次のようなものがあります。

  1. タイムカード
  2. 出勤簿
  3. 入退館・入退室記録
  4. 残業申請書
  5. 会社で業務上使用していたパソコンのログイン・ログオフ記録
  6. メールの送受信記録
  7. シフト表
  8. スケジュール表
  9. 賃金台帳
  10. 給料明細
  11. 業務日報
  12. 出張報告書
  13. タコグラフ(トラック運転手やタクシー運転手)
  14. 労働者の携帯電話の発着信・メール送受信記録
  15. 日記・メモ・書き込みのあるカレンダー

会社によっては,これらを廃棄したり改ざんするおそれがあるので,できるだけ早く入手する必要があります。

会社が資料を任意に提出しない場合は,裁判所を通じて資料を提出させる証拠保全手続きを行うことがあります。
証拠保全手続きを行うためには,早急に準備が必要になりますので,早目に弁護士にご相談ください。

「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準について」(平成13年12月12日付基発第1063号)という通達では,労災補償の対象となる疾病を8種類に分類しています。
脳血管疾患については,以下の4種類です。

  1. ①脳内出血(脳出血)②くも膜下出血 ③脳梗塞 ④高血圧性脳症

虚血性心疾患等については,以下の4種類です。

  1. ①心筋梗塞 ②狭心症 ③心停止(突然死を含む)④解離性大動脈瘤

労災補償の対象である疾病ではないことが明らかでなければ,原則として対象疾病にあたり,認定基準に従って認定されます。

過労自殺・精神障害による場合

過労により大きなストレスを受け,疲労が蓄積され,場合によってはうつ病等の精神疾患を発症し,自殺に至ることを過労自殺といいます。

厚生労働省は,過労死・精神障害について,「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日付基発1226第1号)という通達を出しています。労働基準監督署は,この認定基準に基づき,労災か否かを判断します。

精神障害の発症前6カ月の間に起きた業務による出来事について,「心理的負荷による精神障害の認定基準」の別表1「業務による心理的負荷評価表」により「強」と評価されれば,業務による強い心理的負荷が認められます。

「業務による心理的負荷評価表」には,
「転勤をした」「ノルマが達成できなかった」「退職を強要された」「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」等の業務上の出来事が掲げられており,これらの出来事の前後に1カ月100時間程度となる時間外労働があった場合には,多くの場合労災と認定されます。

また,これらの出来事が複数あった場合は,これら複数の出来事による心理的負荷の強度が総合的に評価されます。

総合的評価の結果,心理的負荷が「強」と認定される場合,労災と認定されます。

自殺が労災と認定されるためには,過重業務やパワーハラスメント等によって,精神障害を発症していたことが必要になります。

過労自殺で亡くなった方は,亡くなった当時に何らかの精神障害を発症していることがほとんどですが,精神科を受診していない場合も多いです。しかし,精神障害の診断がなくとも,精神障害による自殺であることを証明することは可能です。

家族や同僚が,本人について,
いつも暗い表情で元気がなかった」毎日帰宅が遅く疲労困憊であった」死にたいと言っていた」食欲不振で痩せてきていた」こと等を証言すれば,本人のうつ病の症状を示す証拠になります。

本人がこれらのことをメモや日記,ブログ,SNSに書いていれば,うつ病の症状を示す重要な証拠になります。
また,本人が精神科へ受診していなくとも,内科を受診していた場合,内科のカルテに不眠や頭痛の症状の記載があれば,重要な証拠となります。遺品の中に医療機関の診察カードや領収書がないか調べてみるといいかもしれません。

自殺した本人が精神科を受診していなくても,あきらめずに様々な証拠を収集して検討することが重要です。

通勤災害の場合

労働者が,通勤途中の災害によって負傷した場合,労災保険法により,業務災害(仕事中の災害)と同じ内容の給付を受けることができます(治療費が労災保険から支払われ,休業補償を受け取ることができます)。

通勤災害と認められるための要件は次のとおりです。

労働者が,①就業に関し②住居と就業の場所との間の往復の移動を,③合理的な経路及び方法により行い,④移動経路の逸脱又は中断がないことです。

①就業に関し

仕事と関連性があるという意味です。移動行為が仕事に就くため,又は仕事を終えたことにより行われるということです。

例えば,午後から遅番勤務の労働者が,運動部の早朝練習に参加するために朝早くから出勤する場合には,仕事との関連性が否定されています。他方,仕事が終わった後,事業場の施設内でサークル活動や組合活動をした後に帰宅する場合は,仕事との関連性がまだ続いていると認められます。

②住居と就業の場所との間の往復の移動

就業の場所には,会社や工場といった仕事を行う場所のほかにも,物品を得意先に届けて,その得意先から直接帰宅する場合の届け先,出勤扱いとなる研修会の会場も含まれます。

③合理的な経路及び方法

労働者が通勤のために通常利用する経路や方法のことです。

例えば,子供を育てている共働きの労働者が,託児所・保育園・親等に子供を預けるために利用する経路は合理的な経路となります。また,普段使用している経路が工事中のため迂回する場合も合理的な経路となります。他方,特段の合理的理由もなく大きく遠回りする経路をとる場合には,合理的経路とは認められません。

④移動経路の逸脱又は中断がないこと

「逸脱」とは,通勤の途中で仕事や通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれること,「中断」とは,通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことです。

例えば,通勤途中でゲームセンターやパチンコ店に入って遊ぶ,映画館に入る,バーなどの飲食店で飲食する場合,逸脱や中断となります。

他方,日用品の購入や病院の受診,介護といった日常生活上必要な行為を必要最低限で行う場合,逸脱又は中断の間を除き,合理的な経路に戻った後は,再び通勤となります

腰痛の労災

労働者に発症した腰痛が業務上のものとして労災認定出来るかを判断するためには、厚生労働省が腰痛の労災認定基準として原因別に定めている、以下のような要件を満たす必要があります。

認定基準を満たすには,次の事実が重要なポイントになります。

  • 労働者がどれくらいの就労期間中
  • どれくらいの時間
  • どのような物を
  • どれくらいの頻度で
  • どのような姿勢をとる必要があったのか
  • 筋肉等の疲労や骨の変化が医学的に確認できるか
  • 腰痛の原因が筋肉等の疲労や骨の変化であると医学的にいえるか

これらの事実について,客観的で説得的な資料や証言,医師の意見等を集めることができるかが重要となります。

腰痛は,突然腰痛になる場合( ⒈ 災害性の原因による腰痛 )と、徐々に腰に負担が積み重なって腰痛になる場合( ⒉ 災害性の原因によらない腰痛 )に分けられます。

さらに,⒉ 災害性の原因によらない腰痛は,
①筋肉等の疲労を原因とした腰痛 と、②骨の変化を原因とした腰痛
に分けられます。

⒈「 災害性の原因による腰痛 」の労災認定基準

災害性の原因による腰痛の場合,次の2つの要件を満たし,かつ治療を必要とするものが労災認定の対象となります。

腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる,通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が,仕事中に突発的な出来事として生じたことが明らかに認められること。

具体的には,重量物の運搬中に転倒して瞬時に重量が腰部に負荷された場合です。

腰部に作用した力が腰痛を発症させ,または腰痛の既往症もしくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること。

⒉「 災害性の原因によらない腰痛 」の労災認定基準

災害性の原因によらない腰痛の場合,重量物を取り扱う業務など腰に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に発症した腰痛で,作業の時間や作業期間などからみて,業務が原因で発症したと認められるものが労災認定の対象となります。

次のような業務に約3ヶ月以上従事したことによる筋肉等の疲労を原因として腰痛になった場合には,労災と認定されます。

  • 約20㎏以上の重量物または重量の異なる物品を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務 ⇒ 港湾荷役等
  • 毎日数時間程度,腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務
    ⇒電信柱などで作業をする配電工等
  • 長時間立ち上がることができず,同じ姿勢を保持して行う業務
    ⇒長距離トラックの運転等
  • 腰に著しく大きな振動を受ける作業
    ⇒車両系建設用機械の運転等

次のような重量物を取り扱う業務に約10年以上にわたって継続して従事したことによる骨の変化を原因として発症した腰痛は,労災と認定されます。

  • 約30㎏以上の重量物を,労働時間の3分の1程度以上に及んで取り扱う業務
  • 約20㎏以上の重量物を,労働時間の半分程度以上に及んで取り扱う業務

他にも,筋肉等の変化を原因とした腰痛の箇所で紹介したa~dの業務と同程度以上腰部に負担のかかる業務に約10年以上にわたって継続して従事したことで発症した慢性的な腰痛も,骨の変化を原因とした腰痛として,労災と認定されます。

認定結果に不満がある場合、
“不服申立て” または “行政訴訟”を行います。

不服申立て

審査請求

労働基準監督署の調査の結果,労災と認められなかった場合,その決定に対して不服がある時,労働者災害補償保険審査官に対して,審査請求をすることができます。

審査請求手続は,原則として業務外決定を知った日の翌日から60日以内に行う必要があります。

労働基準監督署から業務外決定がなされた場合,調査を行った労働基準監督署の担当者と面談し,業務外と判断した理由の説明を受けます。
また,個人情報開示請求手続を利用して,労働基準監督署が調査した資料を交付するように,労働局に求めます。

こうして,審査請求において,どのような点を補強すればよいかを検討し,新たな証拠がないか調査し,審査請求を行います。

再審査請求

審査請求が棄却された場合には,労働保険審査会に対して,再審査請求をすることができます。

再審査請求手続は,原則として審査請求を棄却する決定書の謄本が送達された日の翌日から60日以内に行う必要があります

行政訴訟

行政訴訟の提起

再審査請求をしても労災と認定されなかった場合,国を被告として,遺族補償給付等の不支給決定処分の取消を求める行政訴訟を提起できます。

行政訴訟は,原則として請求棄却の裁決があったことを知った日の翌日から6カ月以内に行う必要があります。

行政訴訟を提起してから第一審判決が出るまで,約2年程度かかるのが現状です。

裁判所は,国が策定した認定基準に必ずしも拘束されませんので,労働者の勤務実態を個別具体的に総合評価した結果,労働基準監督署で業務外となった場合でも,裁判所が結論を覆す可能性があります。

労働者は会社に対して、
民事裁判による”損害賠償請求”が可能です。

労災民事訴訟

安全配慮義務

使用者は,労働者の業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して,労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っています。

労働契約法5条に「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。」と規定されています。

そもそも,会社は,労働者の労働時間をタイムカード等によって適切に管理する義務を負っており,また,労働者の過重な労働実態を認識しえたのであれば,労働者の義務を軽減させる措置をとる等し,労働者の疲労が蓄積することがないように配慮しなければならないのです。

また,過労によって疾患を発症したり,発症する可能性がある労働者に対しては,適切な治療を受けさせる義務もあります。
そのため会社が,上記に挙げた労働者への安全配慮義務に違反して過労死や過労自殺を発生させた場合,損害賠償責任を負います。

損害賠償請求

一般に,労災認定がなされると会社に対する損害賠償請求がしやすくなることから,労災申請を先行させることが多いです。
労災認定がなされた後,会社との間で示談交渉をし,示談がまとまらなければ,会社に対して責任を追及する損害賠償請求訴訟を裁判所に提起することになります。
過労死や過労自殺の労災民事訴訟における損害として,以下のようなものが挙げられます。

逸失利益とは,過労死や過労自殺がなければ得られたであろう将来の収入等の利益のことです。原則として,労働能力喪失期間に相当する基礎収入から生活費と中間利息を控除して算定します。

例えば,死亡当時40歳で年収600万円のサラリーマンで,妻と子1人がいた場合,生活費控除率は被扶養者が2人のため30%となり,67歳まで就労可能とすると27年間のライプニッツ係数14.6430となりますので,次のような計算になります。

600万円×(1-0.3)×14.6430=6150万0600円

慰謝料は,死亡に対する労働者自身の精神的損害と遺族固有の精神的損害の両者を請求することができます。
死亡した労働者が一家の支柱の場合,慰謝料は一般的に2800万円程度になります。

葬祭料は,原則として150万円程度が損害と認められます。
但し,葬儀費用が150万円を下回る場合は,実際に支出した金額が損

裁判を弁護士に依頼した場合,会社に弁護士費用の一部を負担させることができます。
一般に判決では,認容額の1割を目安とする例が多いです。

損害賠償請求をするには,時効に気を付けましょう。
安全配慮義務違反について,債務履行責任と不法行為責任の2つの法律構成があります。

債務不履行責任を理由とする損害賠償請求の時効は,損害が発生した時点から10年間ですが,不法行為責任を理由とする損害賠償請求の時効は,損害及び加害者を知った時から3年間です。

会社による補償

上記の損害賠償請求以外にも,以下のようなものがあります。

従業員が亡くなった場合,業務上の死亡か否かを問わずに,会社から弔慰金,見舞金,死亡退職金等が支払われることがあります。

労災によって従業員が死亡または負傷した場合,退職金を増額したり,会社が上積み補償として,一定の補償金を支払う旨の規程があれば,会社から規程に基づく補償金が支払われます。

会社が上積み補償規程の存在を隠していることもあるので,労災補償にかかわる規程を全て開示してもらうことが重要です。