過労死事件における過失相殺

1 過労死等防止対策推進シンポジウムが開催されます

 

 

毎年11月は,過労死等防止啓発月間です。

 

 

11月20日水曜日14時から,

石川県地場産業振興センターにおいて,

過労死等防止対策推進シンポジウムが開催されます。

 

 

https://www.p-unique.co.jp/karoushiboushisympo/pdf/ishikawa.pdf

 

 

今回のシンポジウムでは,過労死事件の第一人者である,

大阪の弁護士の松丸正先生の講演があるので,

私にとって,貴重な勉強の機会になります。

 

 

松丸先生は,過労死事件において画期的な判決を

勝ち取っておられまして,本日は,松丸先生が勝ち取られた,

過失相殺に関して,労働者側に有利に判断した裁判例を紹介します。

 

 

岐阜県厚生農協連事件の岐阜地裁平成31年4月19日判決

(労働判例1203号20頁)です。

 

 

この事件は,時間外労働が1ヶ月100時間を超える

長時間労働をしていた20代の労働者が自殺したことについて,

ご遺族が,安全配慮義務違反を理由に,損害賠償請求をしました。

 

 

2 安全配慮義務とは

 

 

雇用主である被告は,雇用する労働者が

安全で健康に働くことができるように

配慮しなければならない義務を負っており,

これを安全配慮義務といいます。

 

 

具体的には,労働者が長時間労働によって,

精神疾患を発症させないために,

労働時間を削減したり,休ませたりしなければならないのです。

 

 

 

 

過労死や過労自殺の事件では,

この安全配慮義務違反があったかが激しく争われることが多いのですが,

この事件では,珍しいことに,被告は,

安全配慮義務違反があることを認めました。

 

 

3 過失相殺とは

 

 

その代わり,被告は,過失相殺を主張してきました。

 

 

過失相殺とは,被害者にも過失(落ち度)があった場合に,

被害者が請求できる損害賠償が減額されるということです。

 

 

この事件では,被告は,次のような過失相殺の主張をしました。

 

 

①被災労働者が長時間労働をしたのには,

被災労働者の仕事の進め方や姿勢に問題があった。

 

 

この被告の主張に対して,裁判所は,労働者の長時間労働の解消は,

第一次的には,仕事の全体について把握し,

管理している使用者が実現すべきものなので,

被災労働者が仕事の量について上司に相談しなかったことは,

被災労働者の過失にならないと判断しました。

 

 

被災労働者が非効率な仕事をしていたのであれば,

使用者は,指導や助言をすればよかったのです。

 

 

 

 

②被災労働者が超過勤務申請書を提出していなかったので,

被災労働者の労働状況や健康状態を把握できず,

必要な対策ができなかった。

 

 

この被告の主張に対して,裁判所は,上司は,

被災労働者が超過勤務申請書を提出せずに,

慢性的に長時間労働をしていることを目撃しており,

被災労働者が自己申告している労働時間が

現実の労働時間とかけ離れていることを十分わかっていながら,

何もしていないので,被災労働者の過失にならないと判断しました。

 

 

使用者は,タイムカードなどで

労働時間の管理をすればよかったのです。

 

 

③被災労働者は,精神科を受診し,

自分の健康管理をすべきだったのにこれをしていない。

 

 

この被告の主張に対して,裁判所は,

長時間労働による過労自殺の案件においては,

労働者が医師から具体的な受診の必要性を指摘されて,

医療機関を受診する機会があったのに,

正当な理由なく受診しなかったといった事情がない限り,

医療機関を受診しなかったことは,

被災労働者の過失にならないと判断しました。

 

 

精神科を受診するのをためらう人が多いので,

精神科の受診を医師から言われない限り,

精神科を受診することはほとんどないので,

当然の判断だと思います。

 

 

このように,過労死や過労自殺の事件では,

被災労働者によほどの落ち度がない限り,

過失相殺はされないと考えられます。

 

 

過労死事件における過失相殺を検討する上で,

参考になる裁判例なので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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