即戦力として採用された管理職に対する試用期間満了後の本採用拒否が争われた事例

1 試用期間と本採用拒否

 

 

労働契約を締結する際に,試用期間が設定されることがよくあります。

 

 

入社後一定期間に実際に働いてもらい,

その中で適性を評価して本採用するかを決めることが多いです。

 

 

そのため,試用期間中には,会社に

労働契約を解約する権利が留保されているのです。

 

 

試用期間中とはいえ,すでに労働契約は成立しているので,

会社がこの留保されている解約権を行使できるのは,

解雇と同様に,客観的合理的理由があり,

社会通念上相当である場合に限られます。

 

 

もっとも,試用期間満了による本採用拒否は,

通常の解雇よりも緩やかに判断される傾向にあります。

 

 

2 即戦力として採用された管理職に対する解雇は緩やかに判断される

 

 

さて,本日は,即戦力として採用された管理職に対する

本採用拒否の適法性が争われた社会福祉法人どろんこ会事件の

東京地裁平成31年1月11日判決を紹介します

(労働判例1204号62頁)。

 

 

この事件では,被告の社会福祉法人に

事業部長として中途採用された原告が,

3ヶ月の試用期間満了で本採用を拒否されたことから,

本採用拒否は無効であるとして,訴訟を提起しました。

 

 

原告は,年収1000万円に相当する

月額83万4000円の高額な賃金待遇のもと,

即戦力の管理職として中途採用されたため,

職員管理も含めて,被告において高いマネジメント能力を

発揮することが期待されていたという事情があります。

 

 

しかしながら,原告には,以下の本採用拒否

の事由があると認定されました。

 

 

・原告が重要な会議にしばしば欠席することがあった。

 

 

・原告の部下に対する言動が高圧的・威圧的で,

部下からパワハラであるとして内部通報・外部通報をされる事態になり,

協調性がなく,管理職としての適合性がない。

 

 

・原告が被告に提出した履歴書に記載された職歴のうち,

事実に反する不適切な記載が確認された。

 

 

原告は,これらの指摘を受けて,改善する意向を示しましたが,

原告が高いマネジメント能力を買われて高待遇のもと,

即戦力として中途採用されたことから,原告に対する改善指導は,

当然の前提ではないとして,被告が原告に対して,

改善指導をしなかったことは問題ではないと判断されました。

 

 

結果として,被告による本採用拒否は有効となり,

原告の請求は認められませんでした。

 

 

 

特定のポストや役職のために上級管理職として中途採用され,

賃金などの労働条件において優遇されている場合には,

勤務成績の不良の程度は,労働契約で合意された能力,

地位にふさわしいものであったか否かの観点から緩やかに判断され,

教育訓練や配置転換も問題とされないので,注意が必要です。

 

 

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